片野元彦作
﨟染『波渡る兎』絽名古屋帯
帯18-6-1
作者証紙付き
ご売約済
まず始めに、作名冒頭に書かれている「﨟染」(ろうそめ)、
これは文様染である臈纈(ろうけち)染めを意味しているのではなく、
ほんのり淡い萌黄色地から察するに、おそらく葛の葉を染料とする葛染めをしたのだと想像できます。
そして本来は「葛染め」と書くところに月偏を加えて「﨟」と言う文字に変換し、「﨟長ける」との意を持たせた造語なのではないかと思います。
豪快に飛沫をあげる波を軽々と飛び越える兎の図案、兎は月の精とされ、不老不死、子孫繁栄、豊穣など縁起の良いもの、波は水なので火防・火除けとされ、江戸の頃より人々に愛されてきた縁起の良い文様。
そこに仏教に語源をもつ、﨟長けた、すなわち年を重ねるとともに様々な苦労や困難を乗り越えて、美しく優美で洗練され、成熟した女性の姿をこの兎に重ね合わせているのだと思います。
片野氏の初期の頃、友禅作家時代の帯だと思われますが、繊細な染めで描かれた表情豊かな帯。
絞り染め作家となった後年は、随筆家・白州正子さんとも交流があったと言われ、絞りに技法に独特な作風を表した片野氏ですが、初期の染め作品にも物創りにたいする真摯な情熱を感じさせる作品です。
片野元彦:明治32年名古屋出身。大正9年21歳の時に画家岸田劉生に師事、昭和31年民芸運動の指導者「柳宗悦」より藍絞り染めの再興を示唆され、絞りの世界を志す(当店57歳)。
絞りに転向して、絞りの技法・色彩に独自の作風を確立した。(片野元彦「絞りと藍」より)