雪晒し

雪晒し「古い上布を雪晒しに出してみたら、真っ白になって帰ってきたの!」と、驚き喜ぶ店主の話を聞いたのは、2年か3年ほど前でした。
「雪に布を晒して自然の力で漂白する」
言葉ではわかっていましたが、実際に反物を出して、仕上がり具合の実感を得た話を直に聞くと、普段都会で生活していると忘れがちな自然の力の底知れなさに、不思議な感動を覚えたのを思い出します。

この3月、そんな神秘の雪晒しの現場を皆で見に行こうと、灯屋2の越後上布を三反抱え、新潟へ行かせて頂くことが叶いました。
ほぼ一日かけて、中田屋織物の社長で伝統工芸士の中島清志氏とそのご家族に案内していただいた今回は、雪晒しの他に、一番重要とされる苧績み(おうみ)と呼ばれる手績みの糸づくり、そしてそれをいざり機で織る姿を拝見させていただき、最後は時間の許す限り店主から中島さんへの質問攻め…という行程で締めくくりました。

暖冬は新潟も例外ではなく、いつもはまだ白いという山も、低い部分は茶色い肌を見せていました。
持ちこんだ反物をお湯でもんで、水に色がつかなくなるまで汚れを落とした後、車で向かった雪山。
山の平らに、雪晒しのための真っ白い世界がありました。

雪晒し

雪晒しは2月から3月の雪解けの頃の作業で、化学的に説明すると、雪から蒸発した水分に強い紫外線が当ることでオゾンが発生し、このオゾンの酸化作用で生地が漂白されるそうです。
そしてこの作業は布の汚れが落ちるまで、何日かかけて行うとのことでした。
この作用は、植物繊維だけに効果を発し、絹などの動物繊維には適用できないそうです。

白の眩しさに目を細めながら、スタッフも皆でお手伝いさせてもらって、布の両端を持ち、雪の上に置いていきました。
置かれた布は、日をうけて発光するようにきらめく雪の上で、みるみる力を取り戻していくように、雪とともに輝きはじめていました。
その美しさを見ているだけで、私自身も、背中の重さがすっと抜けて、身体が軽くなるような気持ちの良さに満たされていきます。

雪晒しのために越後に戻ってきた布たちは、「里帰り」というそうです。
生まれた場所に戻って英気を養い、また、きものとしてお勤めするため奉公に送り出す。

そんな呼び方で布の世話をしている、と、最初に湯で上布を足踏みでもみながら、中島さんが話して下さいました。
実際に、雪に晒した布がぐんぐんエネルギーを吸収して糸に生気をみなぎらせていく様子を見た後は、まさにその通りの言葉だと思いました。

家計の貴重な現金収入であり、地元の人々はほぼ着ることはなかったという越後上布。

長い長い手間をかけて作りあげた布が里帰りをして、充分に休息させてまた送りだす雪晒しという作業は、職人さん達にとっても、尊く嬉しいことなのではないでしょうか。
丁寧に、時間をかけて案内して下さった、雪山の清い雰囲気を纏った中島さんご一家に、心から感謝を申し上げます。

松田